繰延資産の内容

1 具体的事案を紹介する前に、前提知識として、繰延資産について、説明します。

2 繰延資産とは、法人が支出した費用のうち、支出したサービスや品物の効果が1年以上に及ぶもので、資産として経理処理したものをいいます。
支出したお金のことですから、本来であれば「費用」に分類して経費処理されるべきようにも見えます。
しかし、開業費や開発費が典型例ですが、費用の中には、既に支払い済み、または支払い義務が確定した後に、長期間にわたり収益を生み出し続ける可能性があるものがあります。
このような費用については、将来にわたって収益を生みうるので、いったん繰延資産という資産として計上します。

3 そして、繰延資産は、いったん資産として計上してから、所定の期間(種類によりますが、多くは3~5年間)にわたって償却することにより、損金算入していきます(いったん資産として計上し、後に償却して経費に振り替える、という言い方もできます)。

4 今回は、法人が支払った費用が、繰延資産に該当するのかが争われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話しします。
支払ったお金が繰延資産に該当しないのであれば、全額を損金として経理処理できます。
一方、繰延資産に該当するということになれば、所定の期間にわたって償却する方法で経費化するしかなく、全額を一度に経費とできないことになるのです。
このように、この点は、損金算入額、ひいては所得の額に影響を与えるので、大きな問題となるのです。

二 以上を前提に、実例をカスタマイズして、お話を進めます。

1 X社は、医薬品等の製造や販売などを主な事業とする株式会社です。

2 X社は、ある医薬品に関する調査、製造、試験などの開発行為を共同で行うために、A社との間で共同開発契約(以下「本件共同開発契約」といいます)を締結しました。

3 X社は、本件共同開発契約に基づいて負担金を支払い(以下「本件負担金」といいます)、その上で、「試験研究費」として、本件負担金の全額を、支払った時点の事業年度の損金額に算入しました。
X社の見解としては、X社は、A社との共同主体として、当該医薬品を開発し、商品化するための研究をするために本件負担金を負担したのであり、本件負担金全額が「試験研究費」に該当するというものでした(したがって、本件負担金全額を、一事業年度で損金算入したのです)。

4 しかし、税務当局が、本件負担金が繰延資産に該当すると認定し、全額の損金算入を否認したことから、バトルがスタートしました。

1 結論からいえば、国税不服審判所も、本件負担金が繰延資産に該当すると判断しました。
その理由としては、以下のような事情があったからです。

2 本件共同開発契約という名目にはなっていましたが、その内容を見ると、本件負担金を使って行われる業務は、概ねA社が担当することになっていました。
また、このような業務は、本件共同開発契約が締結された時点で、ほとんどA社が完了させていました。

3 このような実態に鑑みれば、本件共同開発契約に基づいて、X社自身が開発主体となって、A社と共同して研究したとは、評価できません。
むしろ、A社自身が調査・研究した成果(情報、ノウハウ、資料など)を、本件負担金という名目で対価を支払って、X社がA社から取得したと評価するのが、実態に即しています。
つまり、X社は、本件負担金という対価を支払って、A社の調査・研究の成果を提供してもらい、それを基に医薬品としての国の承認を得て、製造、販売したと評価できるので、本件負担金は、繰延資産に該当すると判断されたのです。
本件の事実関係からして、X社が、本件共同開発の主体であったと評価できない、という点が、大きなポイントといえます。

1 なお、国税不服審判所は、本件負担金の償却期間について、5年とするのが相当と判断しました。
つまり、5事業年度に分けて、本件負担金を償却し、その分を損金算入するという判断をしたのです。

2 前述のように、繰延資産は、既に支払い済み、または支払い義務が確定した後に、長期間にわたり収益を生み出し続ける可能性があるので、いったん資産として計上し、収益を生み出しうる期間で償却することになります。
そして、医薬品の場合、法令により、いったん国が承認しても、5年ごとに、国の調査を受けなければならないことになっています。
言い換えれば、国が承認すれば、少なくとも5年間は、当該医薬品を販売し、収益を上げることができます。
そこで、収益を上げ得る5年間を、繰延資産である当該医薬品の償却期間とすると判断されたのです。

このように、費用を支出した後において、一定期間収益を生み出す可能性があるのであれば、繰延資産と認定され、経理処理の方法が異なります。
重要なことは、支出する費用が、何に対する対価なのか(対価的関係にある物やサービスは何か)という点を、深く検討することであると考えられます。

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