減価償却の要件としての損金経理

1 まず、本題に入る前に、「更正の請求」について、ご説明いたします。

2 そもそも、税務署長は、提出された納税申告書について、記載された課税標準等または税額等の計算が税法の規定に従っていない場合、その他間違いがあった時は、申告書記載の課税標準等または税額等を更正します(国税通則法24条)
「更正」には、納付するべき税額が増加する「増額更正」と、納付するべき税額が減少する「減額更正」があります。

3 納税申告書を提出した人が、いったん申告書を提出した後に、課税標準等または税額等が過大であったことを知った場合、税務署長に対し、自分に有利に変更するよう、「減額更正」を求めることになります。これが、いわゆる「更正の請求」です。

4 更正の請求を受けた税務署長は、請求内容について必要な調査を行い、請求に理由があると判断した場合には、更正します。
他方、更正しない場合には、更正をすべき理由が無い旨を、更正請求をした人に通知するシステムとなっています。

1 では、本題に入ります。

2 このブログにおいてこれまでも取り上げた通り、減価償却資産とは、棚卸資産、有価証券、及び繰延資産以外の資産のうち事業で利用されており時の経過により価値が減少するものをいいます(法人税法施行令13条)
そして、減価償却資産については、各事業年度において、資産に応じた償却限度額の範囲内で、その償却費として損金経理(法人が決算において費用または損失として経理すること)すれば、損金の額に算入できます(法人税法31条1項)

3 また、減価償却資産について、前の事業年度において償却限度額の範囲を超えた額については、次の事業年度において償却費として損金経理すれば、当事業年度の償却限度額の範囲内で、損金の額に算入できます(法人税法31条4項)。

4 以上を前提に、減価償却額の損金算入が問題となるケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 X社は、再生可能エネルギーを利用した発電業務と電力の販売等を事業内容とする会社です。
X社は、3月決算の会社です(事業年度が、毎年3月31日で終了)。

2 X社は、平成26年3月27日に、太陽光発電設備(以下「本件発電設備」といいます)を取得しました。
X社は、本件発電設備について、平成26年度中に取得したので、減価償却資産として、平成26年3月期決算において、当事業限度の減価償却分を損金の額に算入しました。
そして、これを前提に、X社の所得及び税額を算出して、確定申告をしました。

3 その後、X社は、平成29年に行われた税務調査で、この平成26年3月期における本件発電設備に関する減価償却の経理処理について、誤りを指摘されました。
つまり、そもそも、減価償却資産として、減価償却分が損金算入されるためには、その資産が、法人の事業に利用されていることが必要です。
本件において、平成26年3月期が終了した平成26年3月31日経過時点では、X社は、未だ本件発電設備を利用して電力会社に電力を販売していませんでした(X社が実際に本件発電設備を利用して電力を販売し始めたのは、平成26年10月のことでした)。
つまり、本件発電設備は、平成26年3月31日経過時点では、X社の事業に利用している資産ではなかったので、平成26年3月期においては、減価償却資産として、償却限度額を損金に算入できなかったのです。

4 X社は、税務調査における指摘に従い、減価償却費を損金に算入しないことにして、平成26年3月期の確定申告の修正申告をしました。

1 平成26年3月31日時点で本件発電設備を利用して電力の販売がなされていなかった以上、平成26年3月期において、本件発電設備を、減価償却して損金に算入できないという結論は、理解しやすいかと思います。

2 X社は、平成26年3月期の修正申告をした後、X社の平成26年3月期の確定申告で計上した減価償却費額(以下「平成26年3月期償却費計上額」といいます)について、翌平成27年3月期の損金に算入できると主張し、更正の請求をしました。
というのも、X社は、前述のように平成26年10月から、本件発電設備を事業のために利用しているので、平成27年3月期には、本件発電設備が減価償却資産となっているからです。

3 これに対し、税務署長が、X社の更正の請求には理由が無いと判断し、X社に通知したことから、バトルが始まりました。

1 X社のロジックとしては、平成26年3月期償却費計上額については、平成26年3月期での償却限度額を超えた分を翌事業年度の減価償却費に算入できるという法人税法31条4項が適用されるというものでした。

2 ここでのポイントは、損金の額に算入されるためには、減価償却資産について償却費として損金経理することが条件であるということです。
前述のように、平成26年3月期の段階では、本件発電設備は、減価償却資産となっていません。
たしかに、本件発電設備は、翌27年3月期においては、X社の事業のために利用されるようになりました。
しかし、本件において、X社は、平成27年3月期の段階で、平成26年3月期償却計上額を、償却費として損金経理していませんでした。

3 そもそも、平成26年3月期償却計上額は、減価償却の対象となる資産から生じたものではないし、損金経理もなされていないので、結局のところ、平成27年3月期のX社の損金の額に算入できないのです。

1 減価償却資産は、事業のために利用されているからこそ、償却限度額の範囲で損金算入が認められているのです。
その意味で、資産が、いつの時点から法人の事業に利用されたのかを、明確に把握する必要があります。

2 また、償却費として損金経理することが、損金算入の条件であり、自動的に効力が発生するわけではありません。

3 税務処理手続きが煩雑であるという話を聞きますが、一つ一つ重要な意味や効果があるので、慎重に対応する必要があります。

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