一
1 以前このブログにおいて、青色申告制度について、ご説明しました。
青色申告の承認を受けている法人は、納税手続きにおいても、所得の計算の上でも、特典が得られます。
2 青色申告の承認を受けている法人には、財務省令で定められた帳簿書類の備え付けをするなどの義務があります(法人税法126条1項)。
そして、これらの義務に違反した場合には、青色申告の承認が取り消されることがあります(法人税法127条1項)
3 この点、法人税法施行規則59条では、青色申告法人は、帳簿書類を整理して、7年間、納税地に保存しなければならない、と規定されています。
したがって、本社の引っ越しとか担当者の退職といった事情があっても言い訳にならず、税務調査で質問されたり提示を求められたりした場合には、応じなければなりません。
二
1 今回のブログは、具体的事案における課税処分の内容の紹介というよりは、むしろ、税法の解釈についてのご紹介の意味合いが大きいと思います。
税法に限らず、法律の解釈は、どうしても抽象論になりがちであり、眠気と嫌気を誘うものと思われます。
この点、弁護士は、司法試験時代に、法律解釈論に明け暮れていましたから、得意分野と言えます。
税法は、特に法律の構造が複雑ですので、眠気と嫌気を感じた税理士先生は、ぜひ弁護士との協同をご検討ください。
2 租税特別措置法67条の5では、中小企業者等で青色申告の承認を受けている法人が、その事業に利用するために取得した30万円未満の減価償却資産については、全額損金の額に算入できると規定されています。
この条文をそのまま解釈すると、青色申告の承認を受けていることが条件である以上、承認を得ていない場合には、全額を損金の額に算入できないようにも見えます。
3 しかし、法人税法31条1項では、減価償却資産について、各事業年度における償却限度額の範囲内まで、減価償却費として損金の額に算入できると規定しています。
この規定は、青色申告の承認を受けていることを条件としていません(すべての法人に適用される条文です)。
4 したがって、双方の法律の条文を解釈すると、「青色申告の承認を受けていない法人は、租税特別措置法67条の5が適用されないので、事業のために取得した30万円未満の減価償却資産について、全額は損金の額に算入できないが、法人税法31条1項により、各事業年度における償却限度額の範囲内までは、減価償却費として損金の額に算入できる」という結論になります。
青色申告の承認を受けていない以上、減価償却資産の取得価額が一切損金の額に算入できないわけではない、と国税不服審判所は判断しているのです。
5 実際の例としては、帳簿書類を適式に備え付けていなかった法人が、青色申告の承認を取り消され、その結果として租税特別法67条の5の適用要件を失ったという理由で、減価償却費の損金算入の全部を否認する更正処分を受けたので、不服審査請求をしたというものでした。
国税不服審判所は、法人税法31条1項がある以上、全部を損金の額に算入できないという更正処分は間違っていると判断したのです。
三
1 なお、この実例においては、法人税法37条8項の解釈についても争われたので、あわせてご紹介いたします。
2 法人が資産を譲渡した場合、その代金が資産の適正な財産的評価額よりも低い場合、その差額について「実質的に贈与をしたと認められる金額」は、寄附金に該当します(法人税法37条8項)。
3 ここで問題となるのは、資産の譲渡代金が適正か否かを、どのような基準で判断するのか、という点です。
この実例においては、上場株式の譲渡が問題となりました。
この点、国税不服審判所は、上場株式の場合、特段の事情が無い限り、上場された証券取引所における株式の価格を基準に判断する、という見解を示しています。
そして、上場株式の譲渡価格を、市場取引価格の10%減額したケースについて、譲渡価格が適正ではないとして、減額分が寄附金に当たると判断されたのです。
4 また、「実質的に贈与したと認められる金額」と言えるためには、客観的に贈与と同じ経済的な効果が発生していれば足りる、と判断された点も、注意が必要です。
つまり、資産を譲渡した者が、贈与の意思を有していなくても、贈与と同じ経済的効果が発生していれば、「実質的に贈与した」と認められ、寄附金に該当することになります(税務当局は、譲渡者に贈与の主観的意図があったことを立証する必要が無いということになります)。
5 このような点から、法人が資産を譲渡する場合、「不当に安い」という指摘を受けないためにも、なぜその価格設定にしたのかについて、説得的に説明できるよう、しっかりロジックを組み立てる必要があるのです。