一
1 そもそも、法人の所有する資産が減価償却資産に該当すれば、その価額が減価償却されるので、法人にとって節税効果があります。
そこで、①法人の資産が減価償却資産に該当するのか、②その減価償却資産がいくらと評価されるのか、は大変重要なポイントです。
2 ②について、減価償却資産の価額は、その償却資産の購入の対価と、その償却資産を事業の用に供するために直接必要な費用を合計した金額をいいます(法人税法施行令54条1項1号)。
この範囲の解釈をめぐって、紛争になることがあります。
3 本件では、減価償却資産である建物の価額をどのように算出するかという点について、実例をカスタマイズしてお話いたします。
二
1 X社は、不動産の売買、賃貸、管理などを事業とする法人です。
2 X社は、簡易宿泊所として使用するために、3か所の不動産を購入しました。いずれも、土地上に建物が建っており、X社は、土地建物とも一括して購入したのです(以下、購入した不動産を、「A物件」、「B物件」、及び「C物件」といいます)。
3 前提として、建物は減価償却資産ですが、土地はそうではありません。
そこで、本件のように、土地と建物を一括して購入した場合、売買代金のうち、土地の代金がいくらで、建物の代金がいくらと評価するのか、代金の割り付け方・按分割合が問題となります。
つまり、減価償却資産である建物を不相当に高く金額の割り付けをして、その分土地の分を不当に低くすると、減価償却できる金額が不当に増えることになり、租税負担の公平が損なわれることになります。
三
1 X社は、3物件とも、まず土地について、路線価を基に評価額を算出しました。
そして、それぞれの物件の売買価格から、路線価を基準にした土地の評価額を差し引き、その差額をそれぞれの建物の価額であると考えて、減価償却資産としていました。
2 これに対して、税務署長側が、それぞれの建物の評価方法・売買代金の按分方法が誤りであるとして更正処分をし、バトルがスタートしました。
四
1 まず、国税不服審判所は、X社の行った建物の価額の評価方法が誤りであると判断しました。
2 つまり、路線価は、地価公示価格の80%程度を目途として設定されており、かつ、売り主の利益や販売手数料等の経費が反映されていません。
したがって、路線価をもとに土地の価額を評価した場合、通常、土地の客観的時価に比べて、低い価格が算定されます。
それぞれの物件の売買代金から、客観的時価より低い土地の価格を差し引くとなると、その分建物の価額が、本来の価格より高くなります。
3 このような算出方法は、減価償却資産を不当に高く評価するものであり、租税負担の公平を害すると判断されたのです。
五
1 本件において、国税不服審判所は、物件ごとに分けて検討をしました。
2 国税不服審判所は、A物件については、土地及び建物それぞれの固定資産税評価額を基準に、A物件の売買代金の割り付け方法・按分割合を決定しました。
つまり、土地の固定資産税評価額は、地価公示価格や売買実例等を基に評価されています。
また、建物の固定資産税評価額は、再建築価格(その建物と同一のものを、評価の時点においてその場所に新築する場合に必要とされる建築費)をベースに評価されています
そして、固定資産税評価額は、同一の公的機関が評価しており、客観性・中立性があります。
つまり、固定資産税評価額は、土地や建物の時価を推認する手がかりとして、一般的に合理的と言えると判断されました。
そして、この土地と建物の固定資産税評価額を基準にして按分割合を決め、A物件全体の売買代金額を土地と建物に割り付けて、A物件の建物の価額とする方法が合理的であると、国税不服審判所は判断しました。
3 一方、B物件とC物件については、別の考え方がなされました。
というのも、B物件・C物件の建物は、いずれも、相当規模の改修工事が実施されており、それぞれの固定資産税評価額よりも相当に経済的価値が高くなっていると、客観的に推察されたからです(改修工事より価値が高まったことが、建物の固定資産税評価額に反映されていません)。
本件において、X社は、B物件・C物件について、不動産鑑定士による鑑定を実施しました。
そして、その結果として評価された鑑定額に基づいて按分割合を決め、B物件・C物件それぞれ全体の売買代金額を土地と建物に割り付けて、B物件・C物件の建物の価額としたのです。
六
以上のように、税法の分野では、減価償却資産の評価という点においても、租税負担の公平と実質主義が重視されているのです。