一
1 法人が売り上げを作るためには、それについての売上原価が必要です(その差額が、所得として、課税対象になります)。
したがって、法人の得た売り上げと、それに要した売上原価の対応関係・紐づけを、明確にしておく必要があります。
2 もっとも、通常、法人は、事業において、大量の棚卸資産を反復継続して売買しているので、どの売り上げがどの売上原価に対応しているのかを、一つ一つ個別に識別することは、困難です。
そこで、売上原価=(期首棚卸資産の価額+期中に取得した棚卸資産の価額)-期末棚卸資産の評価額という方法で算出することになっています。
3 売上原価額は、損金の額に算入されて、課税対象である所得を変動させるものなので、正確に算定されなければなりません。
そして、そのためには、法人が、正確な帳簿を作成して、取引の内容を継続的に記録するとともに、帳簿の前提となる資料をきちんと保存し、対照した時に整合性が取れているようにしておく必要があります。
このような正確な帳簿が作成されているからこそ、売上原価額について、前述した、全体を一括りにした計算方式で算定しても、その正確性が確保されるものと考えられているのです。
4 もっとも、仕入れについて、継続な記録をした帳簿そのものが存在しなくても、ごく例外的に、売上原価額として、損金の額に算入できる場合があります。
つまり、法人が、帳簿以上に客観的信頼性のある資料及び計算方法に基づき、仕入れの事実、及びその時期や金額を特定し、その仕入れが、法人の当該事業年度の売上金額に対応する仕入であることを具体的に主張立証できれば、帳簿そのものが無くても売上原価額と評価して、損金の額に算入すると、国税不服審判所は判断しているのです。
5 今回は、この例外に該当するとされたケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。
二
1 X社は、鋼材等の販売業を事業内容とする法人です。
2 X社は、税務調査を受け、特定の取引先との取引(以下「本件取引」といいます)による売り上げを益金に算入しなかったとして、更正処分を受けました。
X社は、本件取引について、X社の代表者個人、及びA社(X社と代表者が同じ)の取引であり、X社の取引、売り上げではないと主張しました。
しかし、X社の代表者個人及びA社が、客観的に見て、X社から独立して独自の事業を展開していたと認められなかったので、X社の主張は否定されました。
三
1 このように、X社が本件取引をして売上を作ったと認定されたので、X社としては、今度は、本件取引についての売上原価額を損金の額に算入すると主張しました。
このX社の主張が認められるかが、争いになったのです。
2 前述のように、X社は、本件取引について、X社代表者個人及びA社によるものと仮装していました。
したがって、X社が、本件取引の内容について継続的に記録した帳簿は、当然のことながら存在していません。
もっとも、前述のように、法人が、帳簿以上に客観的信頼性のある資料及び計算方法に基づき、仕入れの事実、及びその時期と金額を特定し、その仕入れが、法人の当該事業年度の売上金額に対応する仕入であることを具体的に主張立証できれば、帳簿そのものが無くても売上原価額と評価して、損金の額に算入することができます。
3 本件において、X社は、このような主張立証をするために、以下のような証拠を提出しました。
① 仕入の年月日、名称、及び金額が記載された通い帳(「通い帳」とは、掛買い(後日払い)の月日や品目、金額などを記入しておき、後の支払い時の覚えとする書面のことです)
② 仕入の年月日、名称、品名、数量、単価及び金額が記載されているノート
③ 計量年月日、品名、数量、及び取引先が記載された検量書、及び計量伝票の写し
④ 本件取引の取引先が作成した、X社とスクラップ(鉄・ステンレス類)等の取引があった旨が記載された「確認書」と題する書類
4 これらのX社が提出した証拠資料を評価して、それらに記載されている仕入れが実際になされたこと、及びその金額が当該事業年度の売り上げに対応していることが、具体的に立証されていると国税不服審判所は判断し、X社の主張が認められたのです。
四
1 本来であれば、法人としては会社法432条により、正確な帳簿作成義務があります。
そして、前述のように、帳簿が正確に作成されていることを前提として、売上原価額が、全体を一括りにした計算方法で算出されます。
したがって、正確な帳簿作成が大前提であることは、揺らぎません。
2 もっとも、原則があれば例外もあるので、たとえ帳簿そのものが無くても、素材となる資料をかき集めることで、売上原価額と認められる余地もあります。
「諦めたら、そこで試合終了ですよ」という安西先生の言葉は、税法係争にも当てはまるのです(「スラムダンク」より)。