損金に計上できる売上原価の範囲

1 ブログ(64)においてお話しした通り、法人の得た売り上げと、それに要した売上原価の対応関係・紐づけを、明確にしておく必要があります。
なぜならば、単純に言えば、法人の得た売り上げから、それに要した売上原価額を差し引いた金額が、所得として課税対象になるからです。

2 売り上げを作るのに必要な売上原価や法人の業務の遂行上必要な経費は、損金に算入され、益金から差し引かれます。
しかし、法人の支出であっても、使い道が確認できず、法人の業務との関連性の有無が明らかでない場合には、必要経費と言えないので、損金の額に算入できません。

3 今回は、売上原価として損金に算入できる金額の範囲について争われた実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 X社は、経営コンサルティング、広告代理業、日用品雑貨の販売、及び不動産の賃貸等を事業とする法人です。X社の代表取締役は、Aです(X社には、A以外の従業員等はいませんでした)。
B社は、各種デジタルコンテンツの企画、制作、配信、インターネット広告、及び通信販売等を事業としており、その代表取締役は、X社と同じくAでした。

2 X社は、D社から電子マネー(コンビニ等やインターネット上で購入でき、D社加盟店で電子書籍を購入したり、動画視聴等をしたりする際の決済手段として利用できるもの。以下「本件電子マネー」といいます)を購入し、その購入額を売上原価として、X社の損金の額に算入しました。

3 これに対して、税務署長側が、本件電子マネーの使途が不明であり、X社の売り上げと対応しているのか、X社の業務遂行に必要と言えるのか明確でないため、これを損金の額に算入しないという更正処分をして、バトルがスタートしました。

1 本件において、X社は、商品を仕入れ、B社に販売するという取引をしていました。本件でいえば、X社は、D社から仕入れた本件電子マネーを、B社に販売していました。
もっとも、B社に販売するといっても、商品の実物が移動するわけではない電子商取引でした(商品は、仕入れ先からB社の事業所に直送されていました)。
B社は、電子商取引においてX社から仕入れた商品について、インターネット上のショッピングサイトでエンドユーザーに販売し、B社の事業所からエンドユーザーに配送していました。

2 本件の特徴としては、X社には代表取締役であるAしかおらず、しかも、Aがパソコンの使えない人だったという点です。
つまり、Aは、B社の従業員であるCに指示して、Aのメールアドレス(以下「本件メールアドレス」といいます)を設定しました。
そして、Cは、B社所有のパソコンを使って、本件メールアドレスを介して、本件電子マネーの取引をしていました。

3 具体的には、Aが、B社の従業員であるCに対し、購入する電子マネーの種類、時期及び金額を指示し、Cは、Aからの指示に従って、X社の名義で、D社に本件電子マネーを注文していました。
本件電子マネーの購入代金については、CがAの指示を受けて、X社の銀行口座からX社の資金でD社に支払っていました。

4 D社は、本件電子マネーの購入代金の入金を確認した後、本件メールアドレスに、以下の点が記載されたメールを送信しました。
① 「X社代表取締役A様」という宛名
② X社が購入した本件電子マネーの種類
③ X社が購入した本件電子マネーのID等
④ X社が購入した本件電子マネーの額面金額
⑤ 額面金額に対する割引率、及び割引後の購入金額

5 Aは、パソコンを持っていないので、この本件メールアドレスに送信されたメールは、Cが、B社のパソコンで見ました。
そして、Cは、B社のパソコンで、本件電子マネーの管理表(以下「本件管理表」といいます)を作成し、その残高や使用実績を管理していました。
なお、本件管理表には、
① 本件電子マネーを本件管理表に記載した日
② 本件電子マネーを使用するB社のパソコンの端末番号
③ 本件電子マネーのID
④ 本件電子マネーの額面金額
⑤ 本件電子マネーの使用事績
⑥ 本件電子マネーが亡くなったことの確認事績

1 本件において、X社が、X社の棚卸資産である本件電子マネーを、B社に譲渡した、と言えるのであれば、X社が支出した本件電子マネー購入費は、譲渡した棚卸資産に対応する取得価額となるので、損金の額に算入できます。
そこで、「本件電子マネーがX社の棚卸資産と言えるのか」という点と、「X社が、本件電子マネーをB社に譲渡したと言えるのか」という点が、問題となります。

2 まず、X社は、AがCに具体的に指示をして、X社名義で本件メールアドレスを通じて本件電子マネーを購入しており、しかもその代金はX社が負担しております。
したがって、「本件電子マネーが、X社の棚卸資産である」という点は、特に問題なく認定されると考えられます。

3 そして、B社は、B社独自の業務として行っているサイトで物品を購入する際、日常的に、X社に関係なく、本件電子マネーを決済手段として使用していました。
もし、B社が、本件電子マネーを管理しているだけであり、本件電子マネーがX社の棚卸資産だったのであれば、当然のことながら、B社が自社の代金支払いのために本件電子マネーを使用することはできません。
B社が、自社の代金支払いのために、日常的に、X社に関係なく本件電子マネーを使用していたということは、X社がB社に対して、本件電子マネーを譲渡していたからに他なりません。

4 したがって、「X社が、自社の棚卸資産である本件電子マネーを、B社に譲渡した」と評価されるので、X社が支出した本件電子マネーの購入代金は、売り上げに対応する売上原価と認定され、損金の額に算入されると、国税不服審判所は判断しました。

1 ポイントは、X社がB社に本件電子マネーを販売するのに、必要な本件電子マネーをX社がD社から仕入れたわけだから、B社からの売り上げとD社への支払いの対応関係・紐づけが明確になっている、という点です。
もう一つのポイントは、B社がX社の意思に関係なく、本件電子マネーを自社のために使用できるようになっていた状態を、「本件電子マネーが既にB社に譲渡された」と評価された、という点であると考えられます。

2 国税不服審判所の判断の背景には、「X社にパソコンを使えるスタッフがいない以上、Aが、自分自身が代表取締役のB社のスタッフを使って、商品仕入れなどX社の業務をさせることもありうる」という考え方があったのだと思われます。

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