旬を過ぎた棚卸資産の扱い

1 ビジネスを展開する上では、トレンド・流行り廃りの影響を避けて通ることはできません。
その時期のトレンドに適った旬な商品を販売したとしても、結果的に売れ残り、在庫商品となった後では、とうに旬を過ぎてしまい、陳腐化して財産的価値が大きく損なわれているということも、珍しくありません。

2 このように旬を過ぎた在庫商品であっても、棚卸資産に計上しなければなりません。
もっとも、旬を過ぎて陳腐化した在庫商品について、いつまでも従来通りの評価額で棚卸資産計上しなければならないのか、という点が問題となります。

3 以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、月刊誌等の雑誌の出版を事業とする会社です。
Y社は、書籍などの出版、編集、広告及び販売などを事業とする会社でした     が、後にX社に吸収合併されました。

2 X社や、吸収合併される前のY社は、雑誌や雑誌DVDを書店等に販売していましたが、売れ残った雑誌や雑誌DVDは、書店等から返品されるというシステムになっていました。
書店等で売れ残り、販売元に返品された雑誌等は在庫商品になりますが、とうに旬を過ぎており、タイムリーな商品としての財産的価値はありません。
そこで、X社やY社は、返品されて相当期間が経過した雑誌等について、もはや処分可能性が無いと考えて、期末商品棚卸高に計上しませんでした。

3 これに対し、税務署長側は、この点が、期末棚卸高の計上漏れにあたるとして、更正処分をしました。

1 法人税法29条1項、法人税法22条3項により、法人の棚卸資産の価格は、その法人が選定した方法によって評価した金額となります。
その都度評価の方法がぶれると、都合よく調整ができて不公平なので、法人が期末時に保有している棚卸資産については、すべて同じ方法で評価するものとされています(評価方法は法人が選定できますが、すべての棚卸資産について、同じ方法で評価する必要があるのです)。
この原則によると、返品された雑誌等も、当初は、旬な商品としての価値、売上原価が評価されていた以上、たとえ返品後に時間が経過したとしても、同じ方法で評価するので、同じ資産価値があることになり、これを棚卸資産に計上しないのは、やはり漏れということになります。

2 もっとも、法人税法33条2項という規定があります。
法人の棚卸資産について、災害により著しく損傷したり、著しく陳腐化したり、その他これに準じる特別の事情が発生した場合には、その棚卸資産の評価換えをすることができます。
つまり、このような場合には例外的に、棚卸資産の評価方法を変更して、現実的な評価方法で当該資産を評価し直し、期末時点での時価を算出します。
そして、元々の帳簿価格(評価換えをする前の価格)と、期末時点での時価の差額について、損金経理(決算において損失として処理すること)により帳簿価格を減額した場合には、棚卸資産の評価損として、損金の額に算入することになっているのです。

3 このように、特別の事情があれば、評価換えにより、従前の評価の高い方法による棚卸資産の計上の例外が認められます。
しかし、この例外が認められるためには、前述した、損金経理による帳簿価格の減額をすることが、要件になります。
たとえ、棚卸資産が、旬を過ぎて、著しく陳腐化したとしても、勝手に「商品としての財産価値無し」と解釈して、棚卸資産として計上しない、という対応は不適切な処理となります。

1 本件において、毎月定期的に発行される雑誌が売れ残り、翌月号が発行されて返品になった雑誌等が、今更従来通りの値段で販売できる訳がありません。
このような旬をとうに過ぎた雑誌等が、棚卸資産として、従前と同じ評価額で棚卸資産として計上されるのを避けたい、というX社やY社の気持ちは、理解できるところです。

2 しかし、税法上は、法人が選定した評価方法を、都合よく変更できず、すべて同じ方法で評価することが原則です。
そして、例外的に、評価換えが認められる場合も、損金経理による帳簿価格の減額をしていない限り、棚卸資産の評価損を、損金の額に算入できません。
X社、Y社は、このような手続きを実践していなかったので、棚卸資産の計上漏れとして、更正処分を受けることになったのです。

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