費用収益対応原則の範囲

1 法人税法22条3項1号では、「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準じる原価の額は、当該事業年度の損金に算入される」と規定しています。

2 これまでのブログでもご紹介してきたとおり、債務を損金に算入するためには、3つの要件を満たす必要があります(覚えていない方は、復習してください)。
もっとも、法人税法22条3項1号により、収益がその事業年度に益金算入されている場合には、その収益に対応する売上原価や完成工事原価が、未だ確定されていなくとも、その合理的な見積額が、収益と同じ事業年度の損金に算入されると規定しているのです。これを、費用収益対応の原則といいます。

3 そこで、同じ事業年度で損金に算入される「収益に対応する売上原価または完成工事原価」の範囲が問題となります。
つまり、どの範囲の費用についてまで、「収益に対応する」として、同じ事業年度の損金に算入されるか、という問題です。
今回も、実例をカスタマイズして、費用収益対応の原則の適用範囲が争われたケースについて、お話いたします。

1 X社は、土木・建築工事業を事業とする株式会社です。
X社は、土木・建築工事現場で出た残土等を、X社の所有する土地(以下「本件土地」といいます)に搬入していました。
そして、X社は、本件土地において、搬入した残土等を分別して、Y社の運営する産業廃棄物処理施設(以下「本件処理施設」といいます)に搬送して、Y社に処理を委託していました。

2 そもそも、X社が顧客から依頼を受けて土木・建築工事をする上では、工事現場から残土等が発生するのは必然であり、それを工事現場に放置するわけにはいきません。
X社としては、工事現場から出た残土等を本件土地に搬出する業務まで請け負っており、その業務まで含めて請負工事代金が設定されて、X社に支払われています。
したがって、X社が、工事現場から出た残土等を本件土地に搬出する費用については、「費用収益対応の原則」から、同じ事業年度の損金に算入されます。

3 本件で問題となるのは、X社が、本件土地における残土等の分別が終わった後、本件土地から本件処理施設に搬出する費用についても、請負工事代金の収益に対応するものとして、同じ事業年度の損金に算入してよいか、という点です。
「費用収益対応の原則」が適用されるためには、本件処理施設への搬送作業も、X社が顧客から受託した請負工事業務の範囲に含まれること、言い換えれば、本件処理施設への搬送作業も対象にしてX社が顧客から請負代金という収益を得ていたことが、必要です。
当該工事の請負代金という収益と、本件処理施設への搬送の費用が対応していなければ、この費用を同じ事業年度の損金に算入できません。

4 X社は、本件土地は、あくまで残土等を分別するための仮置き場に過ぎず、残土等を本件処理施設へ搬送することまで含んだ業務を受託しており、それに対応した対価である工事請負代金を得ているので、「費用収益対応の原則」から、本件処理施設への搬送費用についても、同じ事業年度の損金に算入できると主張しました。

1 確かに、本件土地が、残土等の分別のためだけに使われている仮置き場であり、分別された残土等が、そのまま自動的・機械的に、本件処理施設へ搬送されていたというのであれば、全体を一連のX社の請負業務と評価できます。
そして、その業務に対応する工事請負代金を得ていた以上、費用収益対応の原則から、本件処理施設への搬送費用も、同じ事業年度の損金に算入しうると考えられます。

2 しかし、国税不服審判所は、本件の特殊性から、本件処理施設への搬送費用について、工事請負代金という収益と対応しないと判断して、損金算入を認めませんでした。

3 本件において、本件土地に搬入された残土等は、主として土砂や砂利等であり、X社が別の土木・建築工事現場で再活用できるものでした。
X社としては、本件土地に残土等を搬入し分別しましたが、その目的は、主として再利用できる土砂や砂利を取り出すためでした。
事実、本件土地に搬入された残土等から分別されて本件処理施設へ搬送されたもの(コンクリート廃材など)は、わずか全体の1%程度でした。それ以外のメインの土砂などは、そのままX社が取得していたのです。

4 このような事実関係からすれば、もはや、本件土地が残土等の仮置き場であると評価することはできません。
X社が顧客から受託していた土木・建築工事業務は、X社が工事現場から残土等を本件土地に搬出した時点で完了していたと評価するのが合理的です。
X社としては、現場から出た残土等を本件処理施設へ搬送する過程で、一時的に本件土地を仮置き場として使っていたわけではありません。
X社は、本件土地を利用して、本件土地に搬入した残土から、再利用できないコンクリート廃材などごくわずかなものを分別して、再利用できる大半を自社で取得し、再利用できないものに限り、本件処理施設へ搬出していました。
このようなX社による本件土地の利用方法、及びそこから本件処理施設への搬送行為が、X社の顧客から受託した工事請負業務に含まれているとは考えられませんし、本件処理施設への搬送費用までも含めて請負代金を取り決めたとも考えにくいところです。

5 したがって、顧客からの請負代金と、本件土地から本件処理施設への搬出費用が対応しているとは言えないので、費用収益対応の原則が適用されず、同じ事業年度での損金処理ができないと、国税不服審判所は判断したのです。

1 ここでのポイントは、大元となる工事請負契約において、請負人であるX社が、どのような業務まで行うことが前提とされていたかという点を、慎重に検討することと言えます。
言い換えれば、注文者である顧客が、このような費用が発生することを想定していたか、と検討する必要があるとも言えるでしょう。

2 この意味で、税法の問題を解決する上では、請負契約の趣旨や内容の解釈という、法律的素養も必要と言えます。
判断に迷った際には、ぜひ弁護士との協同をご検討ください。

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