誰の行為で重加算税が決まるのか

1 以前このブログで取り上げた、不法行為に基づく損害賠償請求権の額の益金算入時期について、復習から始めます。

2 そもそも、収益は、その収入する権利が確定的に発生した時点での事業年度の益金に算入します。
そして、不法行為の場合、損害が発生すると同時に、損害賠償請求権という金銭債権が発生することになります。
そこで、原則として、損害額を損金に計上すると同時に、損害賠償請求権の額を益金算入することになります。

3 もっとも、不法行為の場合、加害者が分からないとか、損害の内容を全体的に把握することが困難なため、すぐには実際に損害賠償請求をして賠償金を回収できないというケースも想定されます。
そのような場合にも、常に損害賠償請求額を益金に算入するというのは、酷と言えるでしょう。

4 他方、納税者の個人的・主観的認識や事情により、益金算入の時期がぶれるというのでは、税負担の公平性や法的安定性を損なうことになります。

5 そこで、通常の判断能力を有する一般人を基準にして、損害賠償請求権の存否や内容を把握できず、実際に損害賠償請求をすることが難しいと判断できる客観的事情が認められる場合には、例外として、益金に算入しなくても良いという扱いがなされています。

1 実際にこの例外に該当するか否かは、ケースバイケースとしか言いようがないのですが、実際に問題となりうるケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

2 X社は、電子機器製造等を事業内容とする株式会社です。
Aは、X社の事業部長であり、Aの上司は、B常務取締役でした。

3 Aは、担当する事業部門を統括する立場でしたが、不祥事を起こしました。
つまり、Aは、X社の会計帳簿に記載されていない、X社の認識していない銀行口座(以下「本件口座」といいます)を開設しました。
そして、Aは、X社の売上伝票の一部を抜き取り、その売上代金を本件口座に振り込ませ、X社の知らないところで、本件口座に振り込まれたXの売上金を不正に取得しました(以下「本件不正行為」といいます)。

4 Aは、その上司であり、X社の常務取締役であるBの指示のもと、本件不正行為をしており、不正に得た利益を2人で山分けしていました(2人とも、個人的目的で、山分けしたお金を使っていました)。

5 結局のところ、本件不正行為がX社に発覚し、Aは懲戒解雇処分となり、Bも、X社の常務取締役を辞任しました。

1 このケースにおいて、X社は、A及びBに対して、本件不正行為による損害について、賠償請求することができます(民法719条1項)。
前述の通り、不法行為に基づく損害賠償請求の場合、原則として、損害額を損金に計上すると同時に、損害賠償請求権の額を益金算入することになります。
そして、例外的に、通常の判断能力を有する一般人を基準にして、損害賠償請求権の存否や内容を把握できず、実際に損害賠償請求をすることが難しいと判断できる客観的事情が認められる場合には、益金に算入しなくても良いという扱いがなされています。
本件が、この例外に当たるかが、問題となります。

2 この点、国税不服審判所は、B常務取締役が本件不正行為に加担したことを、重視しました。
つまり、Bは、X社の常務取締役という重責を負っており、X社の経営に直接的に参画する立場です。
したがって、そのようなX社の中枢にある立場のB常務取締役が、本件不正行為に加担していたということは、X社として、損害賠償請求権の存否や内容を把握できず、実際に損害賠償請求をすることが難しいと判断できる客観的事情があったとは言えません。
そこで、原則どおり、X社としては、損害発生時点の事業年度において、A及びBに対する損害賠償請求の額を、益金に算入しなければならないと、国税不服審判所は判断しました。

1 なお、今回の実例においては、X社から、法人税基本通達2-1-43(以下「本件通達」といいます)に基づく主張が出ましたので、それについてご紹介いたします。

2 本件通達は、「他の者から支払いを受ける損害賠償金の額は、法人がその損害賠償金の額について、実際に支払いを受けた時点の事業年度の益金に算入することを認める」という趣旨の規定です。
そして、X社は、A、BともX車を解雇・辞任しており「他の者」に当たるから、本件通達に基づいて、AまたはBから実際の賠償金が支払われた時点の事業年度に、益金算入すればよいと主張したのです。
しかし、国税不服審判所は、このX社の主張を否定しました。その理由について、ご説明いたします。

3 そもそも、本件通達にいう「他の者」には、X社の役員や労働者は含まれないと、国税不服審判所は判断しました。
なぜなら、これを認めると、外形的には、法人自身がなした行為と、労働者等が個人でなした行為との区別がつかず、全部が「他の者」に該当してしまうおそれがあるためです。

4 また、本件通達にいう「他の者」とは、不法行為時を基準に判断するというのが、国税不服審判所の判断です。
本件において、本件不正行為がなされた時点では、Aは、X社の事業部長であり、BはX社の常務取締役でした(事後的に解雇・辞任になりました)。
したがって、この点からも、A及びBが、「他の者」ということはできず、本件通達が適用されないので、X社の主張は認められない、と国税不服審判所は結論付けたのです。

1 今回の実例においては、X社に対し、重加算税を課すことができるか、という点が、大きな争点になりました。
重加算税については、このブログでも取り上げてきましたが、納税者が、事実の隠ぺいまたは仮装という不正な方法に基づいて過少申告した場合に、通常よりも重い行政上の制裁を課すというものです(国税通則法68条1項)。

2 本件において、A事業部長は、B常務取締役の指示を受けて、X社の会計帳簿記載の基礎となる売上伝票の一部を抜き取り、その売上が存在しなかったかのように隠ぺいしました。
そして、抜き取った売上伝票の売上金を、X社が把握していない銀行口座に送金させて、本件不正行為に及びました。
このような本件不正行為の悪質性を考えると、「隠ぺいまたは仮装」という重加算税の要件は満たすと考えられます。

3 もっとも、国税通則法68条1項では、重加算税の課税要件として、「納税者が、隠ぺいまたは仮装をしたこと」が必要とされています。
本件の場合に、「納税者がした」と評価できるのか、という点が、争われたのです。

4 この点においても、国税不服審判所は、X社の常務取締役であるBが、本件不正行為に加担していたことを、重視しました。
つまり、Bは、X社の常務取締役であり、X社の経営に直接的に参画する立場です。そのようなX社の中枢にある立場のB常務取締役が、「隠ぺいまたは仮装」をしていたということは、納税者であるX社が「隠ぺいまたは仮装」をしていたのと同様と評価できるので、X社に重加算税を課すべきであると判断したのです。

1 このように、法人税の課税関係を検討する上では、行為の主体(本件でいえばAやB)が、法人(本件でいえば、X社)において、どのような職務にあり、どのような責任を負う立場なのかにより、結論が左右されることがあるのです。

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