出来高払いの請負代金の算入方法

1 このブログで取り上げるのも、請負契約行為です。
請負契約は、実務上一般的な取引形態であり、絶対数が多いことに加え、請負業務の規模が多種多様で、事後的な不確定要因の影響を受ける可能性があり、トラブルに発展するケースが多いと言えます。

2 これまでのブログにおいて述べてきたとおり、請負契約の請負代金は、①目的物の引き渡しが必要となる請負契約の場合は、目的物の引き渡した時点で、②それ以外の請負契約の場合には、請負業務の全部を完了した時点で、請負代金請求権の発生が確定するので、その時点での事業年度の益金に算入します。

3 もっとも、請負契約の対象となる業務は、大規模かつ多角的で、請負業務の工程期間も長いという場合が、十分想定されます。
そのような場合、請負工事または請負業務が最終的に完了するまで、請負代金を請求できないとすると、請負会社の資金繰りが厳しくなることが予想されますし、万一、発注会社が、途中で経営破綻したというような場合には、請負代金が回収できず、請負会社に甚大な損失が発生するリスクがあります。
そこで、このような場合には、発注会社として、請負工事の全部が完成していなくても、一定の期間を区切って、その期間の請負工事の出来高に応じた代金を請負会社に支払う、という特約を、請負契約の条項に盛り込むことも少なくありません。

4 このような特約がある場合の請負代金の益金算入時期については、法人税基本通達2-1-9(部分完成基準による収益の帰属時期の特例)で規定されています。
つまり、請負会社の建設請負工事等の全部が完成していない場合でも、その建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度、その割合に応じて請負工事代金を支払うという特約がある場合には、引き渡した時点のそれぞれの事業年度において、引き渡した部分に対応する工事代金を、その範囲で益金に算入するということになっています。

5 このように、「一部でも完成した部分の引き渡しがあれば、それに応じた代金を支払う、という特約があれば、引き渡した時点の事業年度において、その特約の代金を益金に算入する」というロジックは、単純と思われるかもしれません。
しかし、実際には、「工事全体のうち完成した一部を引き渡したので、上記のような特約に基づいて、代金の一部を支払った」と事実認定できるか判断に悩むケースもあります。
以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、Y社から、Y社の工場にある様々な機器類の分解点検や消耗品の取り換えによる修繕等を業務とする請負契約を締結しました(以下「本件請負契約」といいます)。

2 本件請負契約においては、対象となる機器類が多種多様で、数量も多い状態でした。
そこで、X社とY社は、本件請負契約の基本的な内容について、取引基本約定を作成し(以下「本件基本約定」といいます)、請負代金といったケースバイケースで変動する事項については、Y社が発行する「注文書」と、それを受けてX社が発行する「注文請書」によって、具体的に合意をしていました。

3 本件基本約定では、「X社は、請負業務が完成したときは、速やかにY社  に対し、竣工届を提出する」、「Y社は、X社から竣工届を受領したら、速やかに竣工検査を行う」、「竣工検査に合格した場合、Y社は、ただちに工事目的物の引き渡しを受ける」、「竣工検査に合格しないときは、X社が直ちに修理補修し、再度Y社の竣工検査を受ける」、ということが、規定されていました。

4 そして、注文書及び注文請書を見ると、出来高分の代金の支払い時期について、「各月の1日から10日までに検収したものは翌20日、11日から月末までに検収したものは、翌月27日」という記載がありました。

5 Y社の工事監督者であるBは、期日ごとに、「出来高調書」という書面を作成していました。
Bは、対象となる期間の請負業務の進捗状況・出来高を査定し、この出来高調書に、対象期間の出来高の割合や、出来高の査定金額等を記載し、それをX社に交付していました。
そして、X社は、受領したこの出来高調書に基づいて、「出来高請求書」を作成し、Bによる査定金額をY社に請求していました(なお、X社の出来高請求書には、出来高の計算対象期間や、出来高請求金額など、Bの出来高調書と同じ内容が記載されていました)。

6 この実例において、税務署長側は、以下のようなロジックに基づいて、X社に対して更正処分をしました。
前述のように、請負会社の請負工事等の全部が完成していない場合でも、その一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度、その割合に応じて請負工事代金を支払うという特約がある場合には、引き渡した時点のそれぞれの事業年度において、引き渡した部分に対応する工事代金を、その範囲で益金に算入するということになっています。
そして、税務署長側は、本件が、このケースに該当すると主張したのです。
つまり、本件において、全体が終わっていなくても、本件請負契約の内容に含まれる一部が、Y社に部分的に引き渡され、その分についてX社に代金を支払うという特約があるので、その出来高部分については、X社の請負代金債権の発生が確定していると考えたのです。
そして、X社としては、部分的に引き渡しをして、その都度Y社に対して、出来高請求書を送っているので、その都度、請求書を送付した時点の事業年度において、出来高として請求した金額を益金に算入する必要があったと主張しました(X社としては、その都度の事業年度において、出来高請求金額を益金に算入していなかったので、更正処分を受けたのです)

1 この実例において、国税不服審判所は、この更正処分を違法と判断しました。
以下、その理由について、述べます。

2 本件で、X社やY社は、社内用語として、「検収」というフレーズを使っていました。
結論から見れば、税務署長側が、「検収」というワードに引きずられたと言いますか、X社やY社が「検収」というワードを使っていたことに全乗っかりしていたところ、それが覆ったので、大コケしたというオチになりました。
つまり、税務署長側は、前述のように、Y社の注文書やX社の注文請書に、「各月の1日から10日までに検収したものは翌20日、11日から月末までに検収したものは、翌月27日」という記載がなされていたように、X社もY社も「検収」というワードを使っていたことを重視しました。
そして、税務署長側は、「検収」というのは、「請負業務の完成を確認し、目的物の引き渡しがある場合には、その引渡を受けること」と解釈したのです。
このような意味である「検収」というワードを、X社もY社も使っていたということは、本件請負契約の一部が完成し、X社がその完成した部分をY社に引き渡し、Y社として、都度、引き渡しの割合に応じて出来高の請負代金を支払っていたと評価できるので、X社が請求してきた出来高請求額は、その都度、請求時点の事業年度において、益金に算入する必要があったと主張したのです。

3 しかし、課税関係や税法に関する係争は、関係当事者が使った1つのワードが決定的根拠となって、結論が判断されることは、まずないと考えられます。
実態課税の原則ですので、たとえ、当事者が、あるワードについて、本来とは異なる意味内容で使っていた場合、そのワードの形式的意味に引きずられることなく、関係当事者がどのような立場で、どのような事実認識のもと、どのような文脈でそのワードを使ったのか、あるいは、関係当事者が、そのワードにより発生する効果や影響をどのように認識していたか、と言った要素を総合的に考慮し、使われたワードの実質的意味を、合理的に解釈することになります。
このような事実認定における間接事実や補助事実の評価方法については、税理士先生もなじみがなく、面倒くさいと思われるかもしれません。そのような場合には、ぜひ弁護士との協同を、よろしくお願いいたします。

4 本件において、Y社の工事監督者であるBは、前述のように、X社の行った工事の工期や工程に照らして本件請負業務の進捗状況を確認した上で、X社に対して支払う出来高額を査定するために、上記の出来高調書を作成していました。
そして、X社とY社では、Y社に進捗状況を確認してもらい、Y社が、その時点でX社に支払う出来高の額を査定する行為を、「検収」と表現していました。
Bは、その時点での出来高の額を算出するのに必要な範囲でしかX社の請負業務をチェックしておらず、その業務が問題なく完了したことまで検査して、確認したわけではありませんでした。
そもそも、出来高の経済的価値を査定する場合のチェックと、業務が問題なく完了したことを確認するためのチェックでは、その対象範囲や精度が異なります。
本来であれば、その業務が問題なく完了したことを確認することが、「検収」であり、これがなされていれば、「一部分について引き渡しが完了、または一部について請負業務が完了」と評価でき、税務署長側のロジックの方が正しいことになるでしょう。
しかし、本件においては、そのような広範囲かつ精度の高いチェックがなされておらず、Bが「検収」というワードを使ったとしても、あくまで出来高の経済的価値を査定するために必要な範囲内の暫定的なチェックしかしていませんでした。

5 したがって、当事者間で「検収」というワードが使われていたとしても、実態を見れば、出来高相当部分の完成が確認されて引き渡されたとは認められないので、その分についてのX社の請負代金請求権が確定したとは評価できず、請求金額をその都度の事業年度において益金に算入すべきという税務署長側の事実認定は、誤りであると判断されたのです。

6 結局、本件においては、X社が最終的に請負業務全体を完了し、Y社が全体について検査合格とした日の事業年度に、請負金額全体を益金に算入するという処理をすればよかったという判断になったのです。

税法に限らず、法的係争全般に言えることかと思いますが、「言葉尻を捕らえる」事実認定や法解釈は、避けられる傾向にあるといえます。
どのような文脈で、関係当事者がどのような事実認識のもと、そのワードを使ったのか、という背景事情についても、審理がなされるのです。

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