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税法ブログ(Blog)

トラブル時こそ課税関係が重要

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1  通常の業務の中で、ルーテーンとして行われている経理処理については、確立された処理方法があるし、過去の前例に従えば良いので、比較的問題は発生しにくいと思います。

2 しかし、突発的な事故やトラブルが発生した場合には、関係者が動揺して冷静な検討・判断ができないことがあるし、前例画が無いことも多いので、税務処理を間違えたり、思わぬ課税関係が発生したりすることがあります。
税理士先生は、そのような状況において、第三者的な立場から冷静な助言をする必要がありますし、トラブルの場合の対応方法にも習熟する必要があるのではないかと思います。
そのような事態に遭遇した場合には、ぜひ、普段からトラブルと格闘している弁護士との協同をご検討頂ければと思います。

3 今回は、突発的な事故が原因となって、課税関係のトラブルが発生したケースについて、実例をカスタマイズして、お話しいたします。

1 X社は、運送業等を行う会社でしたが、Y保険会社との間で、傷害保険契約をしていました(以下「本件傷害保険契約」といいます)。
本件傷害保険契約の契約者はX社であり、X社の従業員全員を被保険者としていました。そして、X社が、死亡保険金の受取人となっていました。

2 X社の従業員であるAは、仕事でX社の自動車を運転中に、交通事故に遭遇し、亡くなってしまいました(以下「本件交通事故」といいます)。

3 Aの遺族は、X社が、社用車の修繕点検を怠ったため、本件交通事故が発生し、Aが死亡したと主張して、X社を被告として、損害賠償請求訴訟を提起しました(以下「本件訴訟」といいます)。

4 なお、X社は、従業員であるAが死亡したため、本件傷害保険契約に基づいて、1,000万円の死亡保険金(以下「本件保険金」といいます)を受領しました。

5 X社は、本件保険金を仮受金に計上し、X社の益金に算入しませんでした。
これに対し、税務署長側が、本件保険金を益金に算入するべきとして、X社に対し更正処分をして、バトルが始まりました。

1 国税不服審判所は、まず前提として、本件保険金を、X社の益金に算入するべきであり、これを仮受金として計上したX社の税務処理は、誤りであると判断しました。

2 確かに、本件傷害保険契約の契約者、及び本件保険金の受取人がX社となっている以上、Y保険会社からX社に対して支払われた本件保険金を、X社の仮受金と評価することには、無理があると考えられます。

3 この実例においても、X社は、本件保険金を益金に算入するという処理をすべきだったこと自体は、強く争わなかったようです。

1  本件で争われたのは、損金算入の可否及びその範囲でした。
以下、具体的に、ご紹介いたします。

2 本件傷害保険契約は、そもそも、労働災害に遭遇した従業員の災害補償の意味合いで契約されたものでした。
つまり、X社としては、労災保険には加入していますが、いざ労災が発生した場合、公的な労災保険給付金だけではカバーできない損害が従業員に生じる可能性があります。
そこで、X社は、公的補償に追加して、Y保険会社と本件傷害保険契約を締結し、公的補償ではカバーできない部分を補償することにしていたのです。

3 実際、X社は、Y保険会社と本件傷害保険契約をする際に、「災害保障プログラムならびに保険金受取人を指定する保険契約締結に関する確認書兼同意書」(以下「本件同意書」といいます)を提出しました。
本件同意書では、簡単に言えば、「従業員が死亡した場合、X社は、受領した本件保険金の額の50%以上を、従業員の遺族に対して、補償金(以下「本件遺族補償金」といいます)として支払う」ということが約束されていました。

4 そこで、X社としては、本件保険金1,000万円をX社の益金に算入するのであれば、その50%相当額の500万円の本件遺族補償金を、X社の損金に算入するべきであると主張したのです。

1 以前このブログでお話したとおり、当事者の勝手な判断により損金の範囲を決定できるとすると、課税の公平性が損なわれるので、税法上、債務の確定した費用のみを損金算入することになっております。
そして、
① 当該費用に係る債務が成立していること
②   当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
③ その金額を合理的に算定できること
という3つの要件を満たす場合に損金算入されるということは、以前のブログでご紹介しました。
本件において、本件遺族補償金が、この3つの要件を満たすのか、ということが問題となるのです。

2 まず、本件同意書において、X社は、従業員が死亡した場合、本件保険金のうち50%以上の額を、本件遺族補償金として支払うことが約束されています。
つまり、これは、X社の法的義務であり、Aの遺族から本件遺族補償金を請求された場合、X社としては、選択の余地なく支払う必要があります。
したがって、債務が確定していると言えるので、①の要件は満たします。
また、本件交通事故により、Aが亡くなっているので、本件遺族補償金の原因事実も発生しており、②の要件も満たします。

3  問題は、③の要件を満たすか、という点です。
本件において、税務署長側は、①本件同意書には「50%以上」としか記載されておらず金額が特定されていない、②X社は、Aの遺族に対し、本件遺族補償金の額を提示していない、③X社が、本件遺族補償金の額を特定して未払金に計上していない、という理由により、金額が合理的に算定できないので、③の要件を満たさず、本件遺族補償金を損金に算入できないと主張しました。

4 しかし、国税不服審判所は、この税務署長側の主張を否定し、本件遺族補償金の損金算入を認めたのです。
そもそも、本件同意書では、「本件保険金の50%以上を、本件遺族補償金として支払う」ことが約束されています。
つまり、X社としては、本件保険金1,000万円のうち、少なくとも500万円はAの遺族に支払うことが法的に義務付けられているので、その限りで債務の額は合理的に算定できる、と国税不服審判所は判断したのです。
確かに、X社は、本件遺族補償金について、具体的金額を特定して未払金として計上していませんでした。
しかし、それは、Aの遺族から本件訴訟を提起され係争中であり、X社としての支払い総額が確定していなかったから、という事情によるものです。
このような事情がある以上、X社が、具体的金額を特定して未払金として計上していなかったとしても、500万円以上を遺族に支払うことは確実なので、500万円を損金計上しても問題はない、という判断がなされました。
X社として、最低500万円は支払うことが確定しているから、確定した債務額だけは損金に計上してよい、という大変合理的な判断と言えます。

1 なお、本件の実例では、弁護士に支払った費用の損金算入時期についても争われましたので、最後にご紹介いたします。

2 本件で、X社は、Aの遺族から本件訴訟を提起されたので、B弁護士に本件訴訟の対応を依頼し、着手金として、B弁護士に50万円を支払いました。
そして、X社は、着手金支払い時点の事業年度において、B弁護士に支払った着手金を損金に算入しました。
これに対し、税務署長側は、本件訴訟が、当該事業年度以降も続いており、B弁護士の訴訟代理業務は終わっていないので、債務の原因事実が全部発生しておらず、前述の②の要件を満たさないので、損金算入できないと主張したのです。

3 しかし、この主張は、弁護士が頂く着手金の性質を誤認しています。
そもそも、着手金は、弁護士に事件を依頼した段階で支払うものであり、事件の結果に関係なく、弁護士が頂戴する費用です。たとえ裁判に負けたからといっても、返還されるものではありません。
つまり、着手金は、弁護士が事件に着手した時点で、確定的に弁護士が頂戴するものなので、弁護士の着手時点が債務の原因事実発生時ということになります。

4 したがって、当該事業年度中に、B弁護士が本件訴訟の対応に着手した以上、B弁護士への着手金額を、X社の損金に算入して良いという結論になるのです。

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