一
1 法人税法22条3項は、事業年度において、損金に算入する金額を定めています。
そして、その3号では、事業年度に発生した損失の額で、資本等取引以外の取引に関するものを損金に算入すると規定されています。
3号にいう「損失」とは、一般に法人が収益を得るために必要・有益な支出ではなく、収益と因果関係のない財産上の損失と指します。
2 この典型例が、法人財産の盗難による損失です。
盗難被害に遭った場合、基本的にはその被害の時点で損失が確定するので、被害発生の時点の事業年度に損金算入します。
3 もっとも、盗難による損失に備えて、損害保険に加入していることも多いと言えます。
保険会社から、損失額を補填するための保険金が支払われた場合、盗難被害をその時点での事業年度で損金算入していることとの兼ね合いで、どのように益金算入するのかが、問題となるケースがあります。
実例をカスタマイズして、お話いたします。
二
1 X社は、937万円で、X社用の自動車(以下「本件車両」といいます)を購入しました。
そして、X社は、本件車両について、Y保険会社との間で、損害保険契約を締結しました(以下「本件保険契約」といいます)。
本件保険契約の内容として、本件車両が全損になった場合、保険金額を950万円とする協定(以下「本件価額協定」といいます)が、含まれていました。
2 X社は、購入したばかりの本件車両を盗まれてしまいました(取り戻すことができませんでした)。
そこで、X社は、盗難被害時点の事業年度において、本件車両の固定資産除却損(以下「本件盗難損失」といいます)937万円を、損金に算入しました。
3 前述のように、本件車両には、本件保険契約があったので、本件価額協定に基づいて、950万円が支払われるという通知が、Y保険会社からX社に対してなされました。
そのY保険会社からの通知を受けたのが、盗難被害の翌事業年度だったことから、X社は、本件保険契約による保険金を、翌事業年度の益金の額に算入しました。
4 税務署長は、このX社の経理処理が不当であるとして、X社に対して更正処分をしました。
三
1 ここでのポイントは、本件保険契約は、本件車両の損失を、保険金により補填することを目的としているという点です。
本件車両が盗まれ全損になったという損失が発生したと同時に、その損失を補填するための保険金がX社に支払われることになります。
そうであれば、本件車両の盗難という損失と、本件保険契約による保険金は、対応する関係になるので、同一の事業年度においてそれぞれを処理するのが、公正妥当な会計処理基準ということになります。
2 したがって、盗難被害が発生した時点での事業年度において、本件盗難損失を損金算入するとともに、本件保険契約による保険金を益金に算入するのが相当であると、国税不服審判所は判断したのです。
四
1 今回の実例において、X社は、以下の通り主張しましたが、国税不服審判所は否定しました。
2 つまり、X社としては、Y保険会社から950万円の保険金が支払われることの通知を受けたのが翌事業年度に入ってからなので、この通知を受けた時点の事業年度(つまり、盗難被害発生時点の翌事業年度)の益金に算入しても、不当ではないと主張しました。
3 しかし、保険金は、本件保険契約に基づいて当然にX社に支払われるものであり、通知が支払い要件ではありません。X社としては、通知が無くても、Y保険会社に対して保険金を請求することができました。
しかも、本件価格協定により、950万円という保険金額も決まっていたのです。
したがって、本件盗難損失発生と同時に保険金請求権も確定的に発生したことになる以上、被害発生時点の事業年度の益金に算入する必要があったのです。
五
1 自動車盗難に備えた損害保険の場合、利用者に重大な過失があった場合には、保険金を支給しないという免責条項が盛り込まれている場合があります。
免責条項がある場合、盗難被害が発生しても、必ずしも保険会社から全額保険金が支払われるとは限りません。
したがって、このような場合には、損害保険会社から保険金支払いの通知を受けた時点で、保険金支給が確定したとして、その時点の事業年度の益金に算入する可能性があると言えます。
2 しかし、本件保険契約には、このような免責条項が入っていませんでした。 そうであれば、本件盗難損失に対応して、当然に、本件価額協定に基づく保険金が保険会社から支払われるわけですから、やはり、同じ事業年度において会計処理すべきということになるのです。