建物を解体する前提での不動産売買の取得価額

1 今回は、土地建物一括購入における減価償却費の算定を深掘りします。

2 土地建物一括購入における減価償却費の算定では、土地建物を一括購入した場合に、減価償却資産である建物の価額をどのように評価して、どのような按分割合で売買代金を割り付けるか、というお話をいたしました。
今回は、土地と建物を一括購入したけれども、当初から建物を利用する意図が無く、すぐに取り壊す計画だった場合について、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 X社は、飲食店の経営や食品製造等を事業内容とする法人です。

2 X社は、平成16年7月に、競売手続きにより、土地(以下「本件土地」といいます)と、本件土地上の建物(以下「本件建物」といいます)を、一括購入しました。
そして、X社は、本件建物を、自社の事業のために利用することなく、同年10月に解体しました。

3 X社は、土地建物一括購入における減価償却費の算定でご紹介したロジックに基づいて、固定資産税評価額を基準に按分割合を決め、その割合に応じて本件建物の取得価額を、74,730,840円としました。
そして、X社は、減価償却資産である本件建物の取得価額74,730,840円を基礎として、平成17年3月期において、その年度の減価償却分1,031,285円を損金の額に算入しました。
また、X社は、平成18年3月期において、同じく本件建物の取得価額74,730,840円を基礎として、その年度の減価償却分1,546,928円を損金の額に算入しました。

4 このX社の経理処理が不適切であるとして更正処分がなされ、紛争となったのです。

1 この点、国税不服審判所は、本件建物の取得価額は、本件土地の取得価額に含まれ、本件建物独自の取得価額は無いと判断しました。
これを前提とすると、減価償却資産である本件建物の取得価額が無いので、本件土地・本件建物を一括購入した代金を、減価償却により損金の額に算入できないことになります。
以下、その理由について、説明します。

2 そもそも、法人が、土地と建物を一括購入し、その建物を法人の事業のために使い続けるからこそ、建物を独立の減価償却資産として、その取得価額について減価償却が認められたのです。
そうであれば、法人が土地と建物を一括購入した場合でも、当初から、建物そのものを法人の事業に利用する意図が無く、すぐに建物を解体して敷地を更地として利用する目的だった場合には、建物の取得価額(建物の解体費用も含みます)は、土地の取得価額に含まれるので、減価償却により損金の額に算入できないことになります。
そして、「当初から、建物を取り壊して土地を利用する目的だったことが明らか」と言えるためには、
① その建物を取得するに至った経緯
② 取得時の建物の客観的状態(築年数・現況・老朽化の程度・活用可能性など)
③ 土地の更地としての相場価格
④ 取得後の調査や改装等の状況
⑤ 建物の解体の時期・解体目的
などの要素を、客観的・総合的に判断する、という見解を国税不服審判所は示したのです。

1 税法に限らずすべての法律係争について言えることですが、裁判所や国税不服審判所が示した判断基準を、どのように実際の事情に当てはめて、自分の主張する結論に整合し、矛盾の無いように導くか、という点が、代理人のスキルの問われるところです。

2 本件のポイントの一つは、本件建物が、従来、シアン化合物を使用して化学製品を製造する工場として使われていた、という点です。
X社は、食品製造を事業内容としていますから、当然高いレベルでの衛生基準が求められます。
そのようなX社が、シアン化合物を使用して化学製品を製造していた建物を、X社の事業のために購入し、そのまま使用するとは、社会通念上考えられません。
したがって、この点は、X社が当初から本件建物を解体する目的で本件土地と一括購入したことを合理的に推認させる間接事実になります。

3 本件で、X社は、平成16年7月に、本件土地と本件建物を一括購入しましたが、同年10月には、本件建物の解体に着手していました。
このように、本件建物を取得してから解体に着手するまでの時間が非常にタイトだったことも、当初から解体目的だったことを窺わせる間接事実です。

4 また、X社内には、平成16年12月13日付の稟議書(以下「本件稟議書」といいます)がありました。
本件稟議書には、本件建物を解体して、新工場に建て替えるということが記載されていました(平成16年12月の段階で、新工場への建て替えが決まっていたのです)。
つまり、X社は、当初から、本件建物を解体し、新工場に建て替える計画のもと、本件土地・本件建物を一括購入したことが、本件稟議書からも裏付けられたのです。

5 本来、X社が、本件建物を減価償却資産として保有し、減価償却していく考えなのであれば、本件建物をX社の事業においてどのように利用する計画なのかについて、具体的に説明できるはずです(何の利用目的も無いのに、建物を購入し保有する法人は、ありません)。
しかし、X社は、この点について、具体的で説得的な説明ができませんでした。
この点も、当初から、本件建物を利用せず解体する目的だったと認定された一つの要因です。

6 以上の点を客観的・総合的に検討し、X社は、「当初から、本件建物を取り壊して本件土地を利用することが明らか」であると判断されました。
その結果、本件建物の取得価額は、本件土地の取得価額に含まれることになるので、本件建物の取得価額を減価償却により損金の額に算入したX社の対応は、誤りとされたのです(土地は、減価償却資産ではないので、その取得価額を減価償却することはできません)。

当初から、すぐに本件建物を解体して本件土地を更地として活用する意図であるのに、本件建物を法人の事業に利用するように見せて、本件建物の取得価額を設定し、それを減価償却して損金の額に算入するというのは、租税負担の公平を害することになります。
この点でも、税法の実質主義は、徹底されていると言えるのです。

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