税法係争における事実の評価

1 客観的な証拠及び合理的な間接事実から、課税要件となる事実が認定できるかという問題については、このブログにおいて度々取り上げてきました。
しかし、細切れの事実を認定しても、ただちに、課税を正当化するロジックが成立するわけではありません。
認定した事実の意味を評価し、組み合わせたり紐づけたりして、課税要件を満たすための論理構成をする必要があります。

2 本件では、前提となる基礎的な事実には争いがないものの、それらの事実の意味の解釈や評価をめぐって争われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 X社は、Y社が経営するAゴルフクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」といいます)の会員権1口を取得するために、Y社との間で入会契約を締結しました(以下「本件入会契約」といいます)。

2 本件入会契約の内容としては、
① 入会登録料:5,150,000円(以下「本件入会登録料」といいます)
② 預託金:35,000,000円(以下「本件預託金」といいます)
を支払うことになっていました。
なお、本件預託金については、本件ゴルフクラブに入会した日から10年間の据置期間経過後は、会員が本件ゴルフクラブを退会した際に返還を請求できる約定になっていました。

3 X社は、Y社に対し、本件入会登録料及び本件預託金を支払い、その合計金額40,150,000円を資産に計上する経理処理をしました。

1 Y社は、10年の据置期間が経過した後、X社をはじめとする本件ゴルフクラブの会員から、次々と本件預託金の返還を請求されたら、本件ゴルフクラブの経営に大きな支障となると考えました。

2 そこで、Y社は、10年の据置期間が経過する直前に、X社に対し、以下のような申し入れをしました。
① 本件預託金のうち、15,000,000円を、X社に返還する。
② 残額の20,000,000円については、預託金10,000,000円(据置期間は、X社が申し入れを承諾してから10年間)のゴルフ会員権2口に分割する。

3 X社は、Y社からの申し入れを受け入れることとし、上記の内容を記載した合意書をY社との間で作成しました(以下「本件合意書」といいます)。
本件合意書を作成した結果、X社としては、Y社から、15,000,000円が支払われるとともに、預託金10,000,000円(据置期間は、本件合意書作成日から10年間)の本件ゴルフクラブの会員権2口を保有することになりました。

4 以上の事実経過は、特段争いが無いところでした。

1 本件において、X社は、Y社から支払われた15,000,000円について、計上していた資産から減額しました。

2 そして、X社は、本件ゴルフクラブを退会し、Y社から、本件預託金の返還として、現金15,000,000円と、2口のゴルフ会員権を取得したと考えて、退会したことから、本件入会登録料相当額を、雑損失として損金の額に算入しました。
なぜならば、本件ゴルフクラブを退会することが、本件預託金の返還請求の要件だったからです。

3 これに対し、税務署長側は、X社が、引き続き、本件ゴルフクラブを、従来と同一の条件で利用できるという点を重視し、本件入会登録料を損金の額に算入しないという更正処分をしました。

4 基本的には同じ事実関係を前提にしているのですが、どの事実を重視するかによって、主張内容が異なったのです。

1 そもそも、預託金制ゴルフクラブの会員権は、主として、ゴルフ場施設を優先的に利用するという内容の権利ですから、減価償却資産以外の無形固定資産に該当します。
したがって、本件ゴルフクラブ会員権の取得価格は、本件入会登録料と本件預託金の合計額ということになります。

2 そして、会員が本件ゴルフクラブを退会した場合には、本件入会登録料は返還されないので、その額については、退会した時点の事業年度における損金の額に算入されます。

3 以上の点を考慮すると、X社が本件ゴルフクラブを退会し、Y社から本件預託金の弁済を受け、その上で新たに、Y社との間で、本件ゴルフクラブの入会契約をして、新規に本件ゴルフクラブの会員権2口(預託金額が1口1,000万円)を取得した、というX社の理屈も成立するように見えます。

1 しかし、国税不服審判所は、本件の実態に即し、X社の主張が不自然であると判断しました。

2 前述のように、X社は、Y社と本件合意書を取り交わした後も、同一の条件で本件ゴルフクラブの施設を優先利用することができることになっています。
X社のロジックの前提は、「X社が本件ゴルフクラブを退会し、利用できなくなった」ことを前提としているのに、本件合意書作成後も、変わらず同じ条件で、本件ゴルフクラブを利用し続けることは、整合性を欠くと言わざるを得ません。
本件ゴルフクラブを退会して利用できなくなったから、退会時の事業年度において、本件入会登録料の損金算入が認められたのに、その後も継続して同じ条件で本件ゴルフクラブを利用できるというのは、不合理といえます。
しかも、本件合意書作成時に返還されなかった本件預託金の残金20,000,000円も、据置期間が10年間延長になったとはいえ、Y社に引き継がれることになっています。

3 以上の事実関係を社会通念に照らし合理的に評価すると、X社が、本件ゴルフクラブを退会し、Y社から本件預託金の返還を受け、その上で、新たにX社がY社と本件ゴルフクラブの入会契約を締結し、新規にゴルフ会員権2口がX社に発行されたと考えるのは、不自然というほかありません。

4 むしろ、従来からX社の本件ゴルフクラブの会員権の内容が、本件合意書作成によって変更になり、会員権の内容変更の効果として、Y社から15,000,000円が支払われるとともに、プレーできる人が一人増えた、と判断する方が、実際に即しており、合理的です。
したがって、X社としては、本件合意書の作成により、本件ゴルフクラブの会員権の内容が変更になったのであり、本件ゴルフクラブを退会したわけではないので、入会登録料を損金の額に算入できないという結論になったのです。

1 なお、今回の実例では、X社より、Y社から本件預託金のうち15,000,000円は返金されたのだから、その割合に応じて一部分でも、本件入会登録料の損金算入を認めるべきであるという主張がなされました。

2 しかし、国税不服審判所は、このX社の主張を否定しました。

3 そもそも、本件ゴルフクラブを退会した時点で、本件入会登録料が損金に算入されます。
そして、本件においては、X社の本件ゴルフクラブ会員権の内容が変更になったと認定されたのであり、本件ゴルフクラブを退会したわけではありません。
そもそも、ゴルフクラブは、入会しているか、退会したかのどちらかしかなく、部分的に退会したということは、論理的に考えられません。

4 以上の点から、国税不服審判所は、X社が本件ゴルフクラブを退会していない以上、本件入会登録料を損金の額に算入する余地はないと判断したのです。

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