一
1 以前のブログでもご紹介した通り、事業年度において損金の額に計上するのは、
① その事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価、その他これらに準じる原価の額
② その事業年度の販売費、一般管理費その他の費用
③ その事業年度の損失の額で、資本等取引以外の取引にかかるもの
とされています(法人税法22条3項)。
2 今回は、固定資産除却損を、どの時点の事業年度の損金に算入するかという点が争われた実例をカスタマイズして、お話いたします。
二
1 まず、基本的なことですが、固定資産除却から、お話いたします。
2 そもそも、不動産、機械、車両等の固定資産は、取得したときから、減価償却を行います。
この減価償却の最後や減価償却中に使わなくなった固定資産を、帳簿から除く経理処理のことを、「固定資産除却」といいます。
この点、価値が無い不動産や、耐用年数が経過している車両などでも、現に使用している場合には、除却ができません。
3 固定資産除却を行った場合に、その時点でも帳簿上は残高が残っていることがあります。
除却した時点で帳簿上残っている残高については、その額について「固定資産除却損」として損失に計上します。
除却した時点の帳簿上の残高を、固定資産除却損として損失に計上するだけなので、損失といっても、実際に現金が流出するわけではありません。
三
1 では、問題となった事案をカスタマイズして、ご紹介します。
2 X社は、エステサロンの運営を事業内容とする株式会社です。
3 X社は、A社が所有していた建物(以下「本件建物1」といいます)を賃借し、エステサロン店舗を運営していました。
4 A社は、本件建物1を、平成15年7月30日に、Y社に売却しました。
X社は、その後はY社から本件建物1を賃借し、これまでと同様にエステサロンを運営してきました。
5 X社は、本件建物1に合体する形で、自社で建物を建てました(以下「本件建物2」といいます)。本件建物1と本件建物2は、連絡通路で接続されていました。
6 X社は、自社所有の建物として、本件建物2を使用していましたが、平成15年1月30日に、Y社に売却しました。
つまり、X社は、本件建物1及び本件建物2双方について、所有者であるY社から賃借して、エステサロンを運営していたのです。
7 Y社は、その後、平成24年10月29日に、本件建物1及び本件建物2双方を、Z社に売却しました。
X社は、Y社がZ社に本件建物1及び本件建物2を売却したタイミングで、同建物でのエステサロン運営を止めました。
四
1 そもそも、法人の固定資産の内容は、「固定資産台帳及び減価償却明細表」に記載されています。
本件において、X社の平成15年2月期の「固定資産台帳及び減価償却明細表」を見ると、平成12年9月1日に事業の用に供した、8,135,658円という金額の「本件2階改装費」が記載されていました(耐用年数を47年として減価償却費を計上)。
2 これは、X社が、「本件2階改装費」をかけて改装を行い、平成12年9月1日から改装部分を事業に使用したこと、そして、そこから減価償却し、平成15年2月期終了時点(平成15年2月28日時点)の帳簿残高が、8,135,658円であったことを意味しています。
3 前述のように、X社は、Y社が本件建物1及び2の所有者だった間は、Y社から本件建物1及び2を賃借して、これらの建物を使用してエステサロンを経営していました。
しかし、Y社が、平成24年10月29日に、本件建物1及び2をZ社に売却したタイミングで、エステサロンを閉店しました。
4 X社は、2月決算でしたから、平成25年2月期の期中に、当該エステサロンを閉店したことになります。
前述のように、X社には、「本件2階改装工事」による「本件2階改装部分」という固定資産があり、その平成25年2月期の期首の帳簿価格が、6,283,167円でした。
X社は、本件建物1及び2がY社に売却されたタイミングで、これらの建物の使用を止めたので、「本件2階改装部分」という固定資産を除却しました。
そして、上記の期首の帳簿価格6,283,167円を、固定資産除却損として、平成25年2月期の損失に計上しました(以下「本件除却損」といいます)。
X社としては、このような固定資産除却損については、除却した時点の事業年度に損失計上するものと考えたのです。
5 これに対して、税務署長側は、本件除却損を、平成25年2月期の損失に計上することはできないとして、X社に対し更正処分をしました。
X社が、審査請求をして、バトルが始まったのです。
五
1 本件は、固定資産除却損をいつの時点の事業年度の損金に計上するか、という本来的な問題とは異なるかもしれません。
2 本件では、当時の関与税理士先生が作成していたX社の平成13年2月期の「固定資産台帳・減価償却費明細書」に、固定資産として、「本件2階改装部分」としか記載されていなかったので、どちらの建物のどの部分が、「本件2階改装部分」に該当するのか、必ずしも明らかではありませんでした。
3 また、本件建物1と本件建物2は、通路で接続された合体した建物であるとはいえ、それぞれ所有権の移転プロセスが異なります。
4 本件においては、これらの点で、税務署長側とX社側で争いがあり、国税不服審判所が判断を示した、という事例になります。
六
1 税務署長側は、そもそも、固定資産である「本件2階改装部分」は、本件建物2の2階の改装部分を指すという前提で、ロジックを構成しました。
2 税務署長側のロジックは、以下の通りです。
① X社の平成13年2月期の「固定資産台帳・減価償却費明細書」に記載されている「本件2階改装部分」は、本件建物2の2階改装部分を指す。
② X社は、平成15年1月30日に、本件建物2をY社に売却した。これにより、本件建物2の2階改装部分の所有権は、Y社に移転した。
(X社は、平成15年1月30日以降は、本件建物2の2階改装部分を、所有者であるY社から賃借していたにすぎない)
③ Y社が、平成24年10月29日に、本件建物2をZ社に売却し、そのタイミングでX社がエステサロンを閉店したとしても、X社には既に固定資産が無い(既にY社に売却済みである)。
④ よって、平成25年2月期中に除却する固定資産は存在せず、この事業年度において本件除却損を計上するのは不当である。
3 この点、税務署長側は、「本件2階改装部分」を、本件建物2のことであると決めつけていたものと考えられます。
X社が「本件2階改装部分」の改装を施工した当時、X社が本件建物2の所有者だったので、税務署長側が、この点に引っ張られたのではないかと思います。
法的に言えば、本件建物1の所有者であったA社またはY社の承諾を得れば、賃借人であるX社が、本件建物1の2階部分を改装することは、可能です。
実務上も、エステサロンを運営する場合、それ独自の仕様を用意する必要があるので、賃借人であるエステサロン経営者が、賃貸人の許可を得て、オリジナリティあるエステサロンに改装することは、十分に考えられます。
したがって、本件除却損の対象の固定資産が、本件建物2の2階改装部分であると決めつけた税務署長側のロジックは、前提の設定が独善的と言わざるを得ません。
七
1 本件の場合、X社の平成13年2月期の「固定資産台帳・減価償却費明細書」に記載されている「本件2階改装部分」が、どの建物のどの部分を指しているのかを特定しなければなりません。
2 この点、X社の平成13年2月期の総勘定元帳の建物勘定には、「本件2階改装部分」の改装費の具体的支出先と支出金額が記載されていました。
そして、それらの支出先は、すべて、本件建物1の2階部分のシャワー室や美容室などの改装工事を担当した会社であり、支出額も実際の額と合致していました(X社は、賃貸人の許可を得て、このような改装工事をしていました)。
3 そこで、本件除却損の対象となる「本件2階改装部分」とは、本件建物1の2階部分を指すのであり、税務署長側の主張は前提を誤認していると、国税不服審判所は判断したのです。
八
1 もっとも、このように考えても、X社は、本件1の建物所有者ではないので、固定資産の所有者ではなく、本件除却損をX社の損失に計上するのは不適切ではないか、という疑問も生じます。
この点、国税不服審判所は、以下の通り判断しました。
2 前述のように、本件除却損の対象になった固定資産は、本件建物1の2階改装部分です。
X社は、賃貸人の許可を得て、本件建物1の2階部分を、エステサロンの美容室、シャワー室、サウナ室等に改装し、本件建物1がZ社に売却され、エステサロンが閉店するまで、一貫して使用してきました。
これらの改装部分は、機能的・物理的に見て、本件建物1と一体となるものではなく、別個独立の造作であり、その所有権はX社にあると、国税不服審判所は判断しました。
3 そして、X社は、平成24年10月まで、「本件2階改装部分」を所有し、エステサロン事業に使用していました。
もっとも、平成24年10月29日に、本件建物1がZ社に売却され、X社としても、そのタイミングで、「本件2階改装部分」の所有権を放棄し、その処分を新所有者であるZ社に委ねました。
そして、X社は、Z社が本件建物1を買い取り、エステサロンを閉めた時点で、「本件2階改装部分」の帳簿残高を除却し、除却した時点の平成25年2月期の事業年度の損金に算入したのです。
このようなX社の経理処理を、国税不服審判所は適正と認めたのです。
九
1 以上のような理由付けで、税務署長側の更正処分は違法として、取り消されました。
2 本件のように、建物同士が密接して建てられていること、エステサロンという特殊性、美容室・シャワー室・サウナ室の機能的同一性の有無など、個別事情を丁寧に検討し、X社が除却できる固定資産があるかを慎重に判断することが、重要です。