一
1 いわゆる公益法人等といわれる法人(公益社団法人、公益財団法人、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人など)の場合、税法上、一般の法人とは異なった取り扱いがなされます。
2 つまり、法人税法4条1項により、公益法人等が公益目的事業をしている場合には、法人税の課税対象になりません。そして、公益法人等が、収益事業をしている場合に、その範囲内で所得に法人税が課税されます。
収益事業の典型例としては、公益法人等が所有する不動産の賃貸業が挙げられます。
3 今回は、公益法人等が、その所有する不動産を、公益法人等に賃貸したという場合について、実例をカスタマイズして、お話いたします。
二
1 学校法人であるX法人は、その所有する土地(以下「本件土地」といいます)を、社会福祉法人であるY法人に賃貸していました(以下「本件賃貸借契約」といいます)。
Y法人は、本件土地上に、特別養護老人ホームや保育園を建てて、運営していました。
2 そもそも、たとえ、賃借人が社会福祉法人であるY法人だとしても、土地を賃貸して地代を受け取っている以上、X法人の行為は、不動産賃貸業として、収益事業に当たります。
したがって、X法人としては、本件賃貸借契約に基づく賃料については、収益事業の益金に算入する必要があります。
3 この賃料について、X法人とY法人との間で、トラブルが起こりました。
Y法人の言い分としては、そもそも社会福祉施設の敷地は、自己所有または無償貸与が原則であり、仮に敷地を賃借するにしても、その公益性から、極めて低額な賃料で賃借することが、施設認可の前提になっているのに、本件賃貸借契約の賃料は高額過ぎる、というものでした。
そして、Y法人は、X法人に対して、賃料について、公益法人等との賃貸借として適正な額まで減額するよう申し入れるとともに、減額されるまで、X法人の請求通りの賃料の支払いを拒否したのです。
4 X法人は、Y法人に対し、再三にわたり、本件賃貸借契約で定める賃料の支払いを求めたのですが、Y法人は頑なに拒否しました。
そこで、X法人は、支払われていないY法人からの賃料について、事業年度の収益事業の益金に算入しませんでした。
5 このように、Y法人から頑なに拒否されているからという理由で、回収できていない賃料を、益金に算入しなくても良いのかが、問題となります。
三
1 そもそも、公益法人等の事業であっても、収益事業の場合には、一般の会社等と同様の基準で、益金算入・損金計上時点が決まります。
2 法人税基本通達2-1-29(賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期)というルールがあります。
複雑な条文ですが、簡単に言えば、「賃貸借契約において、賃料を支払う期日は決まっている場合には、発生した賃料は、その賃料支払い期日時点の事業年度の益金に算入する」というルールです。
実際に賃料が支払われていなくても、賃料支払期日になれば、賃料を取得する権利が確定するので、その時点の事業年度の益金に算入しなさいということになります。
3 そして、本件のように、賃料の額に争いがある場合についても、法人税基本通達2-1-29に規定があります。
つまり、賃料を支払うことは争いが無いが、その額の増減についてトラブルになっている場合には、契約の内容や賃借人の供託額等を考慮して、合理的な賃料を見積もり、その見積もった金額を、その賃料発生時の事業年度の益金に算入することになっています。
実際には、不動産会社などに賃料査定をしてもらい、適正賃料額を算出して、その額を益金に算入することが考えられます。
4 本件において、X法人は、再三請求しても、Y法人が頑なに、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払いを拒否してきたので、未収の賃料債権は、法的に確定していないという認識のもと、未収の賃料を益金に算入していませんでした。
しかし、いくらY法人が拒否したといっても、それはあくまでY法人の一方的な言い分に過ぎず、裁判所が認めたわけで泣かいので、法的に通用しません。
Y法人は、本件賃貸借契約が成立していることを前提に、その賃料の減額を求めているわけです(賃料支払い義務自体を否定しているわけではありません)。
5 したがって、本件は、まさに、法人税基本通達2-1-29が適用されるケースであり、X法人としては、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払い期日が来るたびに、その時点の各事業年度において、本来の賃料額を益金に算入する必要がありました。
そして、Y法人との間で、賃料の額の増減についてトラブルになっていたのであれば、合理的な賃料額を見積もって、それを益金に算入する必要がありました。
Y法人が支払いを拒否しているという理由で、未収の賃料を全額益金に算入しなかったX法人の処理は、やはり誤りと言わざるを得ません。
6 結局のところ、X法人は、収益事業について、申告しなければならないY法人への賃料債権を申告していなかったということになるので、更正処分を受けるとともに、無申告加算税の賦課決定処分がなされたのです。
五
1 なお、今回の実例においては、「みなし寄附金」という制度についても争点になりましたので、最後にご説明いたします。
2 「みなし寄附金」とは、公益法人等が、収益事業から、公益目的事業に対し、お金などを支出した場合に、その支出したお金などについて、法人税法37条の規定の範囲内で、一部を収益事業の損金に計上できるという制度です。
みなし寄附金制度によれば、同一の公益法人等であっても、収益事業で得たお金を、公益目的事業に使えば、一部ですが収益事業の損金に計上できるので、その分、法人税の課税対象である所得額を圧縮できることになります。
3 もっとも、法人税施行令6条(収益事業を営む法人の経理区分)という規定があります。
この規定により、公益法人等は、収益事業による所得に関する経理処理と、公益目的事業による所得に管理する経理処理を、区別して行う必要があります(これが、みなし寄附金制度を利用するための要件です)
4 本件において、X法人においては、このような区別がなされておらず、みなし寄附金制度を適用できない状態でした。
しかし、税務署長は、この点を看過してみなし寄附金制度を適用し、その分安くX法人の所得を計算して、本来よりも少ない課税金額を算出し更正処分をしました。
国税不服審判所は、この点は、税務署長の更正処分に誤りがあると指摘しました。
もっとも、この点の誤りを是正した上で再計算しても、本来X法人の納付すべき税額が、本件更正処分の額を上回っていました。
したがって、X法人に不利益は発生していないので、本件更正処分自体は適法と判断されたのです。
5 このように、国税不服審判所は、税務署長側が主張していない点でも、誤りがあれば、納税者に不利な判断になっても、誤りを是正します。
しかし、誤りを是正した結果、その更正処分の金額が、納税者の本来納付すべき税額を上回っている場合には、納税者に実害が発生するので、その更正処分を取り消すことになるのです。
審査請求をした納税者が、審査の結果、より納税額が多くなるということは、制度としてありません。(不利益変更の禁止原則)