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税法ブログ(Blog)

リベートの益金算入時期と重加算税

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1 商取引においては、しばしばリベートのやり取りが行われています。
リベートというと、ネガティブな印象を持つかもしれませんが、税法上は「仕入割戻し」と扱われます。

2 「仕入割戻し」とは、ある一定期間に行った多額、もしくは多量の仕入れに対して、仕入れ先から払い戻されるお金であり、「高いもの、またはたくさん仕入れてくれたから、それに対するお礼」という意味合いで支払われるケースが多いと言えます(以下、分かりやすく「リベート」といいます)。

3 リベートは、結局のところ、仕入れ代金を割り引いてもらったことになるので、総仕入高から控除する項目として取り扱われるのが原則です。
もっとも、リベートがずいぶん後になって支払われたり、その金額が最初から明確に決まっていなかったりすることも少なくありません。
そこで、法人が、リベートについて計上していなかった場合には、益金の額に算入することになっています。

4 そして、リベートを益金の額に算入する時期について、リベートの額の算出方法が、あらかじめ契約等において明確になっている場合には、仕入れをした日の事業年度になります。
もっとも、契約当初から仕入れの総量や仕入れ総額が不確定なケースも多くあります。そのような場合、実際仕入れをしてみないと、リベートの額が決められないということで、リベートの金額が曖昧になっていることも多いと考えられます。
このような場合には、相手方から、リベートとしてお金を渡すという通知を受けた日の事業年度に、益金の額に算入します(このような通知を受ければ、リベートしてもらえる金額が明確になるからです)。

5 法理論では、このように区別がされているのですが、この法理論上の区別を実際の事件に落とし込むときに、判断に悩むことがあるのです。このように、税法理論を、実際の事件の事実関係にロジカルに落とし込み、依頼者である納税者に利益になるような当てはめの論証を説得的に行うことが、弁護士の腕の見せ所となります。
以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、土木建設業を事業とする株式会社であり、Aは、X社の代表取締役です。
X社は、Y社から生コンを仕入れており、Bは、Y社の代表取締役です。

2 X社は、日ごろから、大量の生コンをY社から仕入れており、その金額も相当多額になっていたので、X社の代表取締役Aは、Y社の代表取締役Bに対し、継続的な相当額の生コン仕入れに対するリベートを支払うように求めました。

3 X社とY社の間では、生コンの仕入れに対するリベートの金額について、取り決めがありませんでした。
そこで、X社からリベートの支払いを求められたBは、過去3年分の生コン仕入に対するリベートとして、600万円が相当であろうと考え、現金で600万円を持ってX社の本社に赴き、Aと面談しました。

4 Bは、Aに対して、「過去3年分の生コン仕入に対するリベートである」と告げて、現金600万円を渡しました。
しかし、Aは、X社が過去3年間にY社から仕入れた生コンの量と金額から考えると、リベートの額として600万円は安すぎると不満を持ち、Bに対して、「600万円は受け取るが、この金額では安すぎるので、了承できない」と伝えました。

5 X社は、この600万円について、「リベートの金額について合意していないのに、Bが一方的に置いていったもの」と考え、Y社からの預り金として、そのままX社本社の金庫に現金を保管していました。
つまり、リベートの額についてX社が了承しておらず、その額が明確になっていないので、600万円がリベートではないと考え、益金の額に算入しなかったのです。
そして、X社は、この本社金庫で保管されていた600万円を、X社に税務調査に入った税務署員に発見され、問題となったというケースです。

1 ここでのポイントは、Y社の代表取締役であるBが、現金600万円について、「過去3年分のY社からの仕入れに対するリベート」という意味合いであることを、Aに伝えていたという点です。
つまり、Aとしては、Bがリベートとして600万円を置いて行ったことを認識していたということになります。

2 たしかに、Aは、600万円というリベート額を承諾しておらず、リベート額の合意は成立していません。
しかし、Bがリベートという意味合いで600万円をX社に置いて行ったということは、少なくともリベート額が600万円以上ということが、この時点で明らかになったと言えます。
X社としては、Bがリベートとして600万円を置いて行った時点で、少なくともこの600万円はリベートとしてもらえることが分かった訳ですから、やはり、Bが600万円を置いて行った日の事業年度において、益金の額に算入する必要があった、ということになります。
X社として、リベート額が600万円では少なすぎると考えたということは、少なくとも、Y社から600万円はリベートとしてもらうつもりだったわけですから、それをY社からの預り金だと認識していたと主張するのは、やはり論理的に無理があると言わざるを得ません。

1 今回取り上げた例の実例において、税務署は、X社に対して重加算税を課しました。
重加算税とは、意図的に申告内容を「仮装」したり、事実を「隠ぺい」したと客観的に判断される場合に課せられるペナルティです。
ここにいう「仮装」とは、故意に事実を変えることを指します。例えば、意図的に売上を計上する時期をずらすとか、架空の会社と取引したことにして、経費を水増しするというような場合があります。
一方、「隠ぺい」とは、本来ある事実を、意図的に隠すことを指します。例えば、意図的に現金や売り上げを計上しないとか、領収書や請求書を隠し、存在していなかったことにする場合などがあります。
税務調査で重加算税の対象となった場合、不足分の税金(追加本税)に加えて、重加算税と延滞税を支払わなければなりません。

2 本件において、X社は、Bから600万円ものリベートを受け取ったのに、それを益金の額に算入せず、現金を本社金庫に入れていて、それを税務調査の際に税務署員に見つかったわけですから、「仮装」「隠ぺい」として、重加算税の対象になるように見えます。
しかし、国税不服審判所は、税務署のX社に対する重加算税の課税処分を取り消しました。
本件のような不服審査請求や課税処分取消訴訟に限らず、民事訴訟(刑事訴訟も同様ですが)において、不利な立場にあるクライアント(税法の係争なら納税者)のために、頭をフル回転させてロジックを組み立て、それを説得的な書面で主張し、最終的にクライアントに有利な結論を勝ち取るというのは、弁護士として、何物にも代えがたい快感と言えます。
本件の場合、600万円もの現金を受け取ったのに、益金の額に算入せずに金庫に入れるという、典型的な「隠ぺい」と言えるのに、X社の重加算税を回避させたわけですから、担当した弁護士さん(もしくは税理士先生)は、アドレナリンが止まらなかったことと推察します。

3 ここでのポイントは、X社代表取締役Aの認識と、600万円という多額の現金という点です。

4 本件において、Aは、600万円というリベートの額に納得しておらず、最終的なリベート金額が明確に合意されていませんでした。つまり、具体的な金額が決まっていない以上、Bが置いて行った現金はリベートではないと認識していました。
そして、Aとしては、Bが一方的に600万円を置いて行ったことから、それを預り金として保管した、という認識でした。
前述のように、重加算税の要件である「仮装」とか「隠ぺい」は、意図的な場合というので、過失は含まれません。
国税不服審判所は、このX社の対応について、600万円の現金がリベートではなく預り金であるという誤解に基づいて、リベートを益金の額に計上し漏らしたという過失であり、意図的に「仮装」とか「隠ぺい」しようとしたとまでは認められないと判断したのです。

5 また、国税不服審判所は、600万円もの多額の現金を普通に保管するのは、防犯上問題だから、本社の金庫に入れて現金を保管していたことをもって、X社が、意図的に600万円の現金を「隠ぺい」したとまでは認められないと判断したのです。

6 そして、結局のところ、X社は誤解に基づいてリベートの計上漏れをしていただけだし、600万円もの多額の現金を金庫で保管するのも不自然ではないから、「仮装」や「隠ぺい」とまではいえず、重加算税の要件を満たさないと結論付けたのです。

7 このように、本来的に不利な立場に立っていても、「意図的ではなかった」とか、「600万円もの多額の現金を金庫で保管するのは、防犯上不自然ではないでしょ」というような本件の特殊性を冷静に見つけ出し、例外に当たることを説得的に主張して、重加算税といった不利益を回避することが、弁護士の手腕であると思うのです。

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